4月29〜30日に聖路加国際大学で行なわれた、プラムヴィレッジ※1僧侶団来日ツアーのイベント「医療・心理職者のための、マインドフルネス研修会」に参加しました。
研修会には、ティク・ナット・ハン※2から学んでいるOIメンバー※3の医療従事者も、講師として来日。日々の臨床やセルフケアにマインドフルネスをどのように役立てることができるのか、 その理論と実際について、具体的なケースも交えながら2日間かけてじっくり学び合いました。
※1 プラムヴィレッジ
フランス・ボルドー地方にある、ティク・ナット・ハンが設立した僧院。欧米で最も大規模の仏教僧院。
※2 ティク・ナット・ハン
ベトナム出身の禅僧。ダライ・ラマ法王につぐ世界的に著名な仏教僧。ベトナム戦争の平和運動の精神的指導者であり、また近年はマインドフルネスの第一人者として、アメリカの連邦議会からGoogle本社まで広く瞑想指導をし、欧米発のマインドフルネス・ムーブメントの父といわれる。
※3 OIメンバー
世界各地のプラムヴィレッジ・サンガ(マインドフルネスの実践をするグループ)の、リーダー的役割を担うメンバー。
マインドフルネス研修・スケジュール
4月29日(土)
オープニング講義 『患者を癒すソーシャルサポートのちから』
保坂隆(医師:聖路加国際病院精神腫瘍科部長)
実践1 体に帰りくつろぐ瞑想
講義1 『マインドフルネスのアートとサイエンス 〜マインドフルネス第二世代としてのMBPH』
ジェニー・チャン(臨床心理士:Breathe and Smile Mind-body Wellbeing Center センター長)
実践2 呼吸に帰る瞑想(マインドフルブリーズィング)
シェアリング
講義2 『がんの臨床におけるマインドフルネスの活用』
スティダ・スワンベチョ(医師:Bumrangrad International Hospital, Oncology Dept.)
実践3 座る瞑想(マインドフルシッティング)
4月30日(日)
実践4 歌う瞑想(マインドフルシンギング)
座る瞑想(マインドフルシッティング)
講義3 『孤独感の対処法 〜裕福で混雑した世の中で〜』
チャン・ファプ・カム(プラムヴィレッジ僧侶:アジア応用仏教研究所 所長)
実践5 昼食・食べる瞑想(マインドフルスイーティング)
実践6 全身を緩める瞑想
実践7 歩く瞑想(マインドフルムーヴメント)
講義4 『患者とのマインドフルコミュニケーション 〜真に相手と「共にある」ということ〜』
ベン・ウェインステイン(臨床心理学博士:Psychological Service International)
パネルディスカッション/Q&A 登壇・全講師
実践8 呼吸に帰る瞑想(マインドフルブリーズィング)
閉会
充実した講義
研修会では講義と、さまざまなマインドフルネス瞑想の実践が交互に行なわれ、心身を通してマインドフルネスが身に付くようにプログラムが組まれていました。
一日目の講義では、保坂先生はソーシャルサポートの重要性を、アニメ映画『となりのトトロ』などをまじえながら親しみやすく説明され、ガン患者の緩和ケアに関わるスティダ先生は、医療現場での実践を通して得た体験を、深く掘り下げて語られました。
二日目は、ブラザー(チャン)・ファプ・カムが孤独や老いへの怖れとの向き合い方を説かれ、ウェインステイン先生の講義は、「意図」という言葉をキーワードに、ペアで行なうワークをまじえながら、「マインドフルネスリスニング(ディープリスニング)」を学び合いました。
「MBPH 」とは?
なかでも興味深かったのが、1日目のジェニー先生が解説された、第二世代のマインドフルネス療法ともいわれる「MBPH (Mindfulness Born Peace and Happiness)」です。
第一世代のマインドフルネス療法(MBSR、MBCT、DBT、ACTなど)には、以下の批判があるそうです。
1、もともとの仏教におけるマインドフルネスの説明、理解から、かなり離れている。(例:第一世代のマインドフルネスは「特定な方向に注意を向ける」ことになるが、仏教では「あるがままを見ていく」のがマインドフルネス)
2、仏教の教えから、欠如しているものが多すぎる。(例:輪廻的思想、無我、空、非二元性など)
そのような批判から第一世代を越える第二世代を求める声が出るようになり、それを受けて、ティク・ナット・ハンのアドバイスを得て開発されたのが、8週間にわたるマインドフルネス治療プログラム「MBPH」。5年ほど前から香港の大学で共同研究が行われているそうです。
「MBPH」の目的
・平和や幸せを育む
・心身の痛みを変容する
・健康で慈悲のある人生を送る
どの宗教の人や、宗教を持たない人でも受け入れられる内容ながら、その土台は仏教の思想と実践に支えられ、現代生活に合うようにアレンジされた五戒(ファイブマインドフルネストレーニング)をはじめ、無常、インタービーイング(相互存在、縁起)、非二元性などが、きっちりと組み込まれています。
そのため「MBPH」は考え方や、生き方そのものを変えていくため、ストレスや鬱には特には役に立つそうです。
ゼロ世代のマインドフルネス
欧米では宗教性や精神性(スピリチャル性)を排した、テクニックとしてのマンドフルネスの限界がみえだし、慈悲、幸福などの要素を加えたマインドフルネスが広がりつつあるのは、取材を通して知っていました。それは、戦闘行為(それが国家間の戦争であれ、ビジネス社会の利益の奪い合いにせよ)とは矛盾しているため、その目的で利用するのは難しくなり、個人的には好ましいことだと感じています。
でも、そうやって足りないものをたしているだけでは、きっとまた足りないものが見えてきて、また探してはたしていくことの繰り返しになるかもしれません。そのたびに、第三世代のマインドフルネス、第四世代のマインドフルネスと更新されていく……対して「MBPH」は、人の苦しみを癒していくブッダの教えが最初からトータルに組み込まれているため、完成度が高いとは言えそうです。
講義でジェニー先生は、「私自身は第二世代というより、ブッダの教えにもどりゼロと言った方がいいのではないかと思います」と言われ、その本質をついた言葉に、深くうなずきました。
もちろん、仏教の実践には「信」もセットになっています。その「信」を持たない患者さんが多数であろう医療の現場でどれだけ有効か、これからの研究を注目していきたいと思います。
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研修会は終始あたたかい雰囲気につつまれ、安心して学ぶことに専念できた2日間でした。
主催のNPO法人ハートシェアリングネットワークの川畑のぶこさんをはじめ、プラムヴィレッジ招聘委員会のボランティアのみなさん、多くの方々の尽力に感謝します。合わせて2日間のほとんどのプログラムを精細な通訳で、笑顔をたやさず担当された丸山智恵子さんにも、感謝を伝えたいと思います。