宿の近くの南房・岩井海岸。東京湾の向こうには、うっすらと富士山が見えます。
年末年始の12月28日から1月3日までの6泊7日、ミャンマーから来日されたディーパンカラ・セヤレーの瞑想合宿に参加してきました。
参加を決めたのは、以下の2つの理由からです。
1、 ここ1年半ほど、仕事や仏教関連の活動が増えて忙しくなり、1日2時間以上、瞑想に専念することが難しい日が多くなりました。そこで必然的にプラクティスは日常瞑想(マンドフルネスの実践)が中心になり、ややバランスを欠いていたため、じっくりと集中して瞑想を行いたかったこと。
2、 私のまわりのサヤレーとお会いした人たちは皆、慈悲のあふれたお人柄に感銘を受けていました。また、正統でクリアな指導にも定評があり、世界中の多くの在家の人たちを禅定に導いているそうです。そんな女性瞑想指導者であるサヤレーに、お会いして学びたかったこと。
・合宿概要
サヤレーは瞑想指導で名高いパオ森林僧院で出家された、女性の瞑想指導者です。毎年、欧米をはじめアジア各地で、数百人単位の瞑想合宿を行っています。それらの国に比べて瞑想がポピュラーでない日本では小規模になり、今回は部分参加者も含めて総勢30人弱。日本人だけでなく、カナダ人やミャンマー人も参加してなかなか国際色が豊かです。サヤレーは英語で法話や個人面談(インタビュー)をされますが、仏教に精通したプロの通訳がつきましたので不自由は感じませんでした。
合宿中は八戒を受戒するため、音楽を聞いたり、メイクをしたり、アクセサリーを付けるのは戒めます。食事も午前中にすませ、午後は飲み物のみ摂取できます。
また、「聖なる沈黙行」を守り、参加者同士の会話も控えます。これは自分にとっても、相手にとっても集中を維持するために大切なこと。それに集中が深まってくると、自然と寡黙になっていきます。とはいえ、私は結構、言葉を発して他の人に迷惑をかけていたと思います。反省です。
合宿の共通のテーマは「ジャーナ(禅定)に入る」こと。現在、ヴィパッサナー瞑想(気づきの瞑想)は初心者から行われていますが、伝統的な仏教瞑想ではサマタ(集中)瞑想でジャーナに入ってからヴィパッサナーを行います。
今回のサヤレーのご指導もそれに準じていて、まずは鼻先の呼吸に集中して禅定に入ります。坐って瞑想をする時だけでなく、歩く瞑想も、食事や入浴中も、鼻先の呼吸に集中して気づき続けるようにアドバイスを受けました。(鼻先に呼吸に集中する瞑想が合わない人は、他のサマタ瞑想を個人面談を通じて教えていただいたようです)
・サヤレーによる鼻先に集中からジャーナに至る解説は、こちらで読めます。
・内容
1日のスケジュールは4時30分起床で21時30分就寝。その間、1時間の坐禅と、30分〜1時間の歩く瞑想を交互に行い、夜はサヤレーが法話をされる日が4日ほどありました。食後や夕方には休憩時間も入ります。また、大広間の瞑想室は24時間いつでも利用できました。
合宿中に2回、個人面談(インタビュー)の機会があり、10分ほど個室で指導を受けられます。自分の瞑想の進行の程度がわかり、それに合わせた具体的な取り組方のアドバイスを受けることがきて、とても有意義でした。またサヤレーと言葉をかわし、深い慈悲に触れることで、おおいに励まされました。
沈黙行を守り、ひたすら禅定を目指す修行濃度の高い合宿は、ストイックになりすぎて、時にギスギスすることもあります。でも、サヤレーは慈悲をとても大切にされ、瞑想の始めには、「体と心の苦しみがなくなるように」と自分や他の人たち、特に自分自身に慈悲を送るように言われました。
また、瞑想の進展のためにも、日常社会を生きて行くうえでも、まず自分自身が幸せで穏やかであることが大切だと、法話で何度も伝えられました。
さらに、サヤレーは自室にいる時も、参加者たちに慈悲を送ってくれたそうです。
そういった要素が相まって、合宿所も全体を通して穏やかな空気が流れていました。
ところで、禅定を目指すとはいえ、ギチギチにこだわりすぎることはないようです。「瞑想合宿中に禅定に行かなくても、あわないで結構です。坐って瞑想をしていることに喜びを感じてもらえることが大切です。そうして、よいカルマをたくさん積んで、よい心の道筋を作って下さい」とサヤレーはおっしゃいます。そう言われたおかげで、みなさん肩の力を抜いて、落ち着いて取り組むことができたのではないでしょうか。
・写真レポート
合宿は南房の岩井海岸近くの民宿「川きん」で行われました。春夏のシーズン中は合宿の子どもや学生でにぎわう宿も、年末年始は貸切で静かに使用できました。
メイン会場の瞑想室には祭壇がしつらえました。
瞑想室は24時間いつでも瞑想ができます。これは、歩く瞑想の時間で人がいなくなったところ。
音楽合宿の設備が充実しているホールは、集中して歩く瞑想ができました。
裏庭にも、歩く瞑想に最適なスペースが。右の小屋は楽器の個人レッスン室ですが、ちょうどクティ(瞑想修行者小屋)のようで、一人で瞑想に取り組むにもピッタリでした。
宿から徒歩5分以内の岩井海岸。歩く瞑想や、サマタ瞑想の一つである水のカシーナの瞑想をしました。
元旦の朝食は手作りのおせちやお雑煮がでました。市販品は蒲鉾だけ、伊達巻きもお餅も手作りです。黒豆にピーナツが入っていたり、お雑煮の青物は菜の花だったり、郷土色を感じるものも。こちらの宿は食事にも心を配られ、コロッケからドレッシング、漬け物まで、たいていのものが自家製でした。
最終日、1月3日に出された千葉の郷土食の太巻き。切り口が梅の花の図柄になっています、スゴイ技術!翌日の「ミャンマー独立記念日」を祝して、女将さんが作ってくださいました。
最終日、沈黙行の解かれたあとの昼食は、参加者でお餅をついていただきました。瞑想合宿に参加して、ここまで日本のお正月を味わえるとは予想外でした。
瞑想合宿で、こんなに環境や食べ物に恵まれて申し訳ないような……
サヤレーは社会の人付き合いではダーナ(与える)、つまり感謝すること、慈悲を与え合うことが大切だと説かれています。そして、手間をかけて料理を作り、伝統文化でもてなしてくれる宿の人たちに、敬意を示すこともその一つだと言われました。
宿の人たちが静かに瞑想に取り組めるように環境を整え、手間をかけて食事を用意することは、ダーナの気持ちを思い起こしてくれるありがたいこと。それなら、素直に感謝して受け取っていいのでしょう。
* * *
合宿はオーガナイザーのBさんをはじめ、はらみつ法友会のみなさんや、通訳兼スタッフのKさんたちの献身的なサポートにも助けられ、順調に進められました(私の瞑想の進展は、順調とはいえませんが……)。また、信心深く慎みのあるミャンマーの方たちの存在が、場の清らかさを増してくれました。
多くの人たちのサポートのおかげで、ダンマに護られ、慈悲に触れながら、瞑想にひたすら取り組むという、恵まれた年末年始をすごすことができました。
最後にサヤレーは「次の合宿には、ニミッタがクリアで安定して見える状態になってくるように」と、みんなに宿題を出されました。そのためにも瞑想を日課にして、心のバランスを保って常に幸せでいるように言われます。瞑想を深めるには、ただ実践するだけでなく、心の在り方も大切なのですね。
・合宿を終えて
サマタ瞑想に特化した7日間合宿を終えて感じているのは、集中力をつけたことで、日常の気づき(マインドフルネス)も安定したようです。そして気づきが安定したことで、ネガティブな感情に振りまわされることも以前より減ったように感じます。やはり、定(集中、安定)と念(気づき)のバランスは大切なようです。
今年も瞑想関連の取材の仕事の予定があり、また、今の時点で学んでおきたいこと、体験しておきたいこともあります。そのため、指導いただいた瞑想法のみに邁進することは難しいのですが、細かいやり方は違っても瞑想を続け、次にお会いする時には、さらに瞑想が進んだと報告ができるよう、励んで行こうと思います。