10月27日は、故吉福伸逸さんのアンソロジー『静かなあたまと開かれたこころ』(サンガ刊)の発売記念トークイベント「吉福伸逸とその時代―精神の革命家が遺したもの」に参加のため、下北沢の本屋B & Bへ。
登壇は日本のニューエイジカルチャーの中心にいたおおえまさのりさんと、作家の田口ランディさん、本書の企画・編集者の堀渕伸治氏という、吉福さんと深い縁のあった3人だ。
力みなく飄々と語るおおえさん。自身の体験シェアしつつ、真摯に問い続ける田口さん。それを、青年時代から吉福さんの活動に密に関わってきた堀渕さんが、少し引いてバランスをとる。
イベントは映像作家でもあるおおえさんが制作した、60年代の世界の映像の上映についで、
トランスパーソナルや吉福さんの言葉を起点にトークがはじまった。
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以下、気になった言葉を、いくつか書き出してみる。(文章として読みやすく構成したので、本人が話されたそのままの言葉ではありません)
「自我がフニャフニャしているままトランスパーソナルをやっても、どこに意味があるのか。
自我をしっかり持つことで、その経験をきちんと落とし込むことができる」(吉福さんの言葉より)
「サイケデリック体験をしても何も変わらない」(田口さん、堀渕さん)
「あえて言うなら、意識も1つの物語そのものと言うしかない」(おおえさん)
田口さん
「自分でも不思議ですが、全てが幻であるということと、魂が輪廻するということが、自分の中で自然に共存しています。矛盾なくどちらもオーケー、どちらも違うとは思えません」
おおえさん
「この世界の背後を支えている基準はありえないです。この世界が意味があるとは全く言えないし、世界を意味付けることも、私は何なにかも全く言えない。ないと知って、そに中の物語を組み立てていく。
これが吉福さんの本のタイトルでもある『世界の中にありながら 世界に属さない』ということではないか」
「本人は気づいていなくても、(意識は一瞬一瞬で変化し続けていて)日常に悟りがある。誰でも普通に経験している」(吉福さんの言葉より)
「田口さん、作家はいいことをしようと思うようになったらお終いです。一日一悪です」(田口さんが対談した加藤清医師の言葉。ここで言われる「悪」とは、自分の業も他人の業もひっくり返すような悪いこと。加藤医師は日本でLSDを臨床医療に使用した伝説の精神医)
「吉福さんは、思春期最前線の人」(堀渕さん)
「神秘体験のような劇的な体験は、自分のなかに残ります。それに固着すると、私は神秘体験をした、あなたはしていないと自我が拡大する。だから、忘れるのが一番です。
一度そこへの回路が開けば、体は覚えているので、時期がくればまた現れます」(堀渕さん)
「自分は精神的な死を何度も経験しているので、肉体的な死は怖くない」(吉福さんの言葉より)
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サイケデリック体験、悟り、変性意識、死……ニューエイジカルチャーを彩るワードが飛び交い、吉福氏の遺したものの意味へと深まっていくなか、あっという間に終了時間に。2時間で終わるのが惜しまれた。
吉福氏が中心になって翻訳されたラム・ダスの『ビー・ヒア・ナウ』の英語原本。日本では一冊の本にまとまっているが、もとは冊子だけでなく、ワーク用のゲームやカードもセットになってパッケージされたものだった。
手前のテキストは文字が印刷ではなく、一文字一文字判子で押された、とてつもなく手間がかけられたもの。
ところで、私は1996年に吉福さんが中心になって立ち上げた日本トランスパーソナル学会の第一回大会に、何人もの人から誘われていた(特に当時お世話になっていた故祖玄和尚からは、熱烈に!)。
トランスパーソナル心理学は専門書など読んで関心はもっていたが、LSD体験の研究をベースとしていることや、中心メンバーの方向性もあり、学会は学術大会というよりニューエイジ系イベントの色彩が濃く感じられて参加しなかった。
その後、私は仏教瞑想(という確立された体系を持つものを)を軸に歩むことになり、
この界隈とは少し離れていたが、久しぶりに自らで道を模索し、体験を通して言葉に落とし込む3人の話を聞いて、自分のなかのいくつかの疑問や空白部分が、クリアになっていった。
あのころ理解できなかったことが、「ああ!」とわかる快感。
私は仏教を通ることで、もう一度トランスパーソナルと出会い直すことができた。
ドラックが禁じられている現在日本では、瞑想はトランスパーソナル心理学を理解するのに確かに有効なようだ。
(補足)
ところで、現在の学会はニューエイジ色が薄れ、日本トランスパーソナル学会(会長:諸富祥彦先生)と、日本トランスパーソナル心理学/精神医学会(会長:石川勇一先生)に分かれて協調しながら運営しているそうだ。
日本トランスパーソナル学会では、プラユキ・ナラテボー師が講演されたことも。