コマメディア 〜史上最弱の仏弟子コマメ〜

雑誌、書籍で活動するライター森竹ひろこ(コマメ)が、仏教、瞑想、マインドフルネス関連の話題を紹介。……最弱なのでおてやわらかに!

【報告】「日本伝統仏教者のためのマインドフルリトリート ~日本仏教とプラムヴィレッジの相互対話」に参加しました

 

 

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總持寺境内を歩く瞑想。PV僧侶やスタッフもふくめると60人以上になったでしょうか。壮大な建物に負けないほどの迫力でした

「第5回 日本伝統仏教者のためのマインドフルリトリート ~日本仏教とプラムヴィレッジの相互対話」に参加しました。

世界的マインドフルネス・ムーブメントの父といわれるティク・ナット・ハン。その僧院であるプラムヴィレッジから来日中の12名の僧侶団と、僧侶を中心とした日本伝統仏教者による合同研修会が、5月8日から2泊3日で曹洞宗大本山總持寺で開催されました。

第1回目から参加している私にとっては、すでに年中行事になっています。今年のテーマは「仏教における<原点(オリジナル)のマインドフルネス>」、40人以上の参加があり昨年の倍近いスケールに。ともに瞑想や坐禅などの実践をし、(豪華!)講師陣による講義を受けて研鑽を重ねました。

 

 

基調講演1 ファプチャック師(ブラザー・ポテト/プラムヴィレッジ(PV)ダルマティーチャー)の「プラムヴィレッジにおける戒律、サンガ、マインドフルネス・トレーニングの関係について」

 

「戒は私たちが体、心、言葉の行いで間違いを犯さないように助け、解放へと導いてくれるものです。マインドフルネス(気づき)なしでは、戒を完成することはできません」

プラムヴィレッジでは現代生活に合うように戒律をリニューアルしてるそうで、その実例も紹介。例えばネガティブな情報から守るために、出家者はインターネットは必ず2人(以上)で見るそうです。

 

 

基調講演2 藤田一照師(禅僧)「道元禅におけるマインドフルネス~その理論と実践」

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まず円座になって呼吸を合わせ、さらにペアで背中合わせになり接地性や垂直性を感じるワークがアイスブレイクとして行われました。

その後の講義では、マインドフルネスには西洋からやってきた技法的(セキュラ?)なマインドフルネスと、ブッディストのマインドフルネス(正念)があり、ブッディストのマインドフルネスは三学、八正道、六波羅蜜、七覚支などの修行システムのなかでオーガニック(有機的)に心身に染み込んでいくものだと指摘。道元禅でも『正法眼蔵 八大人覚』に第五不忘念として取り上げられているそうです。

そして、この2つのマインドフルネスを、前者をジムで鍛えた筋肉に、後者を日常生活のなかで(農作業や肉体労働をすることで)自然についていく筋肉の違いに例えられた。

 

質疑応答では若い僧侶から「マインドフルネスのトレーニングを続けることで、どうなっていくのでしょうか?」という質問が。

それに藤田師は「いいことは色々ありますが、今浮かんだのは、今まで見えていなかった身近な人の思いやサポートが意識の中に入るようになります。人間だけでなく地面や、太陽の光など、もろもろのものからサポートを受けていることも見えてきます。

そうして自分が豊かになり、今まで窒息状態だった息が楽になる。でも、それを目指すのではありませんが」と笑顔で回答。

 

 

 基調講演2 蓑輪顕量先生(東京大学教授 専攻:仏教思想史、戒律、仏教瞑想)「仏教における戒律の問題と、マインドフルネスの意義」

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前半は人間の心の動きを五蘊から説明され、悩み苦しみは心の働きであることを解説。それを自覚して、苦しみなどに囚われない(流せる)ようになるためにも、気づきが有効ではないかと指摘されました。

最後に「ティク・ナット・ハンが、(マインドフルネスの)修行をした人が紛争などを中立的に解決できると言われたのは、まさに通りだと思います」と締めました。

 

後半は戒律について成立から具体的内容、日本での展開などをわかりやすく解説されました。

平安時代最澄が、具足戒を受けずに大乗戒だけで僧侶になれるように主張し、朝廷に認められたのが日本仏教のターニングポイント。このことにより、他国の僧侶はテーラワーダも大乗も問わず、現在でも具足戒(もしくはそれに類する戒)を受けていますが、日本は独特の道を歩むように。

蓑輪先生は「大事なことは、継承してもよかったのでは」と投げかけ、さらに「仏教は悩み苦しみを乗り越える手段として伝えられてきました。お坊さんがきちんとそれを行い、自分の言葉で伝えられるようになれば、日本仏教も必ず必要不可欠なものとして再評価されるのではないでしょうか」と結びました。

 

最終日

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最終日は3:30起床で、坐禅、お勤め(大本山總持寺朝課)、歩く瞑想、食べる瞑想、歌う瞑想と実践が続き、ファプチャック師(ブラザー・ポテト)の法話も「出入息念経(アーナパーナサティ・スッタ)」を詳しく解説されました。同じアナパナ瞑想でも大乗の文脈で語ると「空」風味が入るところが興味深いです。

 

最後の質疑応答では、日本伝統仏教の僧侶から「私もテーラワーダを学ぶなかで五戒にたくさんのメリットがあると気づき、大切にして生きようと思っています。でも、五戒は在家のもので、我々お坊さんは五戒だけでいいのでしょうか、プラスαが必要ではないですか?」という質問のシスター・ハーモニーの答えが秀逸でした。

「私は日本のお坊さんが、250ほどある戒を受けなくていけないとは思いません。今の日本の状況には当てはまらないからです。5つのマインドフルネストレーニング(PV現代版五戒)の中に、ブッダの教えも、さとりの要素も全て含まれています。この5つで十分です」

 

*         *         *

 

戒律に始まり戒律に終わった、ある意味とてもラディカルなリトリートでした。

プラムヴィレッジの日本人僧侶ブラザー・サンライト(宮下直樹さん)は

「日本の僧侶を対象に、ここまで戒律を正面から伝えたイベントはなかったのではないでしょうか。これは画期的なことです」

と感無量なご様子。

 

主催者の一人、世界仏教徒青年連盟理事長の村山博雅さんも力強く言われました。

「自分は海外の仏教者の集まりに参加することも多いですが、戒律主義でない日本仏教は厳しい目で見られることもあります。どのように日本仏教のよさを世界に伝えようか思案していますが、もう一度マインドフルネスや戒と向き合うことで息を吹き返し、世界にも必要とされるようになるのかもしれません」

 

参加した日本人の僧侶方からも、

「こういう話を聞きたかった」

「自身の根本を問われ、かなり衝撃を受けました」

「(リトリートから)三日経ちあらためて感じること。リトリート中の穏やかな感覚や歌のメロディーが、自然と頭の中を流れています」

「今回のリトリート、「戒律」のことでかなり衝撃を受けました。しかしサンガのお影で帰る際には心が落ち着いていました。思い起こしつつ考えると…うーん深いなぁ」

といった感想をいただきました。

 

第一回目から通訳を担当しつつ、ともに学んでいる島田啓介さんが「ここは答えを聞くのではなく、問いを立て、問い続ける場です」と言いましたが、その言葉どうり参加者はそれぞれの問いを持ち帰られたようです。

来年は、その熟成した問いを持ち寄ることで、さらに踏み込んだプログラムになるかもしれませんね。

 

※これは講義メモなどをもとに要約したので、話者の言葉そのものではありません。私の聞き違いや、理解が浅くニュアンスを正しく伝えてない可能性もあります。
どうぞ、読まれる方は一参加者のメモとして、参考程度にお読みください。