3月31日(土)、現代の名僧・村上光照老師をお招きして、「村上光照老師と一期一会」を、スワリノバ主催で開催するご縁をいただいた。
81歳になる村上光照老師は、自身のお寺や道場を持たず、托鉢で全国をまわりながら法話や修行僧の坐禅指導をされる禅僧だ。京都大学大学院時代、ノーベル賞を受賞された湯川博士の指導で原子物理学を研究されるかたわら、昭和の傑僧・澤木興道師のもとで参禅。のちに門下で出家された。
不特定の在家を対象とした法話会はめったに行なわれないが、今回は老師の信頼があつい作家の田口ランディさんのお力添えがあり実現した。
会は、まずは二胡奏者の横山茂登子さんの演奏で、「ふるさと」「荒城の月」「見上げてごらん夜の星を」を、参加者で歌唱することからスタート。伝説の禅僧を前にして、緊張気味だった参加者のお顔も和らいだ。老師はといえば、二胡に興味シンシンのご様子だ。(終了後に、横山さんに構造や材質を質問をされていました)
その後は、田口さんをナビゲーターに、事前に参加者から募った質問に答えていただく形で会が進んだ。
「40才をこえても、自分の好きなことや個性がわかりません。どんなことを心がけたら、自分の好きなことや、個性が見つかるのでしょうか」という最初の質問に、光照老師はしばらく下を向いて沈黙をされ、参加者は息を飲んで言葉を待った。
そうして、しーんと静まりかえった会場で、老師はポツンと放たれた。
「それが精一杯?」
この一言で参加者は圧倒され、老師の言葉をじっと聞き入った。
光照老師は、こんこんと湧き出る泉のごとく話し続ける。
時に、天真爛漫な笑顔で、時に、射抜くような眼差しで。
各々の質問への回答は、流れのままに宮沢賢治、魂、物理学、歴史、神道……話題はあらゆる方向へと止め処もなく続く。
それを田口さんが、間合いを射抜くような「ここぞ」というタイミングで、次の質問へとふっていく。真剣勝負のチャンバラ(後の田口さん談)に、老師も楽しそうだ。
光照老師は、坐禅は姿勢が全てで、それさえできれば自然に三昧に行くと言われる。
その話の流れにの中で田口さんがリクエストすると、珍しく一般に人に向けて坐禅の指導をしてくださった。
合掌の仕方、姿勢の整え方、足の組み方……。田口さんやスタッッフの川島さんをモデルに、丁寧に、かつ理論的に指導された。
私も横に坐り、坐禅における結跏趺坐を教えていただいた。普段はアバウトな結跏趺坐で瞑想をしているが、老師の伝える理にかなった坐り方は、確かに慣れると長く楽に坐れそうだ。
最後は、田口さんの「光照さんが、いつも言っていることが、詩(うた)になっていると感じています。みんなで歌ってお聞かせしませんか?」という提案で、スタジオジブリのアニメ映画『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」を、演奏なしで参加者で歌った。
海の彼方には もう探さない
輝くものは いつもここに
わたしのなかに 見つけられたから
光照老師と、初めて電話で話した時のことを思い出した。限られた時間で確認することが多くて逸る私に、優しい声でこう問われた。「森竹さん、今あなたは電話の前にいますね。それでは、心はどこにいますか?」。
ハッと気づき「はい、少し上空をウロウロしていたようです」と答えると、「そうですよね〜」と包こむような温かな声が返ってきた。
本当だ、いつだってあせらなくていい、今ここにいればいいのだ。
老師はマインドフルネスなんて流行と関係なく、今ここを体現されていた。(当然だ、マインドフルネスは2500年前から、仏教の要だもの)
さらに光照老師は、境界線を越えて、またこちらに戻って来て、自由に行き来している方という印象を受けた。これは、「今ここ」と矛盾するようで、全く矛盾しない在り方であり、修行を極められた禅僧の一つの形を示されているのではと思えた。
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最初の質問の回答を、要約したものを紹介します。あの場に居合わせていないとニュアンスが伝わりにくいかもしれませんが、それを差し引いても、ズシリと胸を射抜かれる人が多いと思います。
「40才をこえても、自分の好きなことや個性がわかりません。どんなことを心がけたら、自分の好きなことや、個性が見つかるのでしょうか」
この手は、どなたにいただいたの?自分のものでも、自分で作ったものでもないよ。
天職もくそもあるかい。人が息を吸うにしても、食べるにしても、考えるにしても、それはね、その時その時の風みたいなもので、いずれ消えてなくなるよ。好きなものがあるはずもなきゃ、嫌いなものもあるはずもない。
自分の本性を本当に求めてごらん。最高に好きなものっていうのはね、人の手に届くかどうかしらんけど、目指すことはできるよ。それを菩提心といってね、なんともいえん嬉しゅうて、楽しゅうて、やりがいを感じるときがあるの。生き甲斐というかね。
いただいたことをね、祖末にしないこと。いただいた時間で、人生体験しかできないと思っているんじゃない。人は一生、人生体験で終わってもいいけどさ、それ以上のこともできるはずだろ。
こっち帰って(返って)ごらん、あっと世界が変わってしまうよ。
一瞬、一秒、無駄な時間は、人に与えられていないんだな。ぼんやりと、そんなね、暇人みたいなこと言わんでいいわ。今からやらないかんもの、自分が一番大切にせないかんもの、もっているよ。
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締めで書いてくださった書。「南無といふ トンボ一匹 極楽トンボ」
老師と多くの人との一期一会のご縁をつくってくださり、盛りだくさんな会をスムーズに進めてくださった田口ランディさん、物心でサポートくださったサンガ出版社の川島栄作さん、山のような業務を笑顔でこなしてくださったスタッフのみなさん、二胡の演奏で場を和やかにしてくださった横山茂登子さん、秦野の新鮮な野菜で菜食の玄米おにぎり弁当を提供くださったオーガニックカフェ「ドイスバナネイラ」のみおさん(老師も美味しいと喜ばれていました!)に、感謝を伝えます。
そして、素晴らし場を作りあげ、予想を超えるお布施をしてくださった参加者のみなさん、本当にありがとうございます。いただいた坐禅道場建設のためのお布施は、老師にお渡しいたしました。
法話会を終えて、田口ランディさんが老師とのことをブログに書かれました。