コマメディア 〜史上最弱の仏弟子コマメ〜

雑誌、書籍で活動するライター森竹ひろこ(コマメ)が、仏教、瞑想、マインドフルネス関連の話題を紹介。……最弱なのでおてやわらかに!

【報告】日本仏教の僧侶と、プラムヴィレッジによる「マインドフルネス・リトリート」が開催されました

 

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5月8日〜10日の日程で、プラムヴィレッジ僧侶団と日本伝統仏教の僧侶が共に実践し、相互対話を通してこれからの仏教のあり方を探る「プラムヴィレッジ僧侶団来日ツアー2017 日本人僧侶向けマインドフルネス・リトリート」が開催されました。

 

日時:平成29年5月8日(月)午後1時開会 ~5月10日(水)正午

場所:大本山増上寺・増上寺会館

主催:全日本仏教青年会/プラムヴィレッジ招聘委員会

 

主なスケジュール

 8日

午後

 ・オリエンテーション

 ・くつろぎの瞑想

 ・法話

 ・(野外)歩く瞑想

 ・食べる瞑想

 

 ・食べる瞑想(プラムヴィレッジ)

 ・真理の分かち合い(ダンマ・シェアリング)

 

9日

午前

・坐る瞑想、ゆっくり歩く瞑想、読経

・(野外)マインドフルネス体操、歩く瞑想

・食べる瞑想(プラムヴィレッジ)

・歌う瞑想

・法話(プラムヴィレッジ僧侶)

 

午後

・昼食(曹洞スタイル)

坐禅作法説明・坐禅曹洞宗 采川昭道老師)

・くつろぎの瞑想

・真理の分かち合い(ダンマ・シェアリング)

・念仏行(浄土宗)

 

 ・食べる瞑想

 ・質疑応答

 

10日

 ・朝のお勤め(増上寺朝勤行)

 ・朝食(浄土スタイル)

 ・歌う瞑想

 ・質疑応答

 

 

 プラムヴィレッジ僧侶と日本人僧侶の合同研修は、2015年から毎年行なわれ、今回は3回目になります。日程は2泊3日と最長になり、プログラムには今まで時間的に難しかった、日本の伝統仏教の実践や、相互対話も加わりました。 

 ゴールデンウイーク直後の、日本の僧侶にとって忙しい期間にも関わらず、日本側の参加者は20人近くに。はからずも所属する宗派は曹洞宗臨済宗、浄土宗、浄土真宗日蓮宗と、日本を代表する宗派がかなりカバーされていました。

 日本伝統仏教の現状に危機を感じて模索されている方、世界的に活動するプラムヴィレッジから、活動(布教)のヒントを得たい方、マインドフルネスに関心のある方など、それぞれが問題意識をもって参加されていました。

 

 

ブラザー・ファプ・カムのダンマ・トーク(法話) 

 

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 ブラザー・ファプ・カムのダンマ・トーク(法話)は、まず千葉県でベトナム国籍の少女が殺害された悲惨な事件の話題から始まり、「私たち僧侶は、深い悲しみにしずむ少女のご両親になにができるでしょうか」と問いかけます。そして、苦しみを抱えた人に共感し、力になるには、まず自分の心をクリアにすることの大切さを説かれました。

 

 ブラザーは、自分も恩師のティク・ナット・ハン(タイ)に対して執着がまだあり、病いに倒れた現状を受け入れるのに苦しんだことや、妹が数週間前に亡くなったことなど、一般向けの法話ではあまり語られない、プライベートなことや、内面の葛藤まで開示。同じ僧侶の参加者に自分の経験をシェアすることで、共に学び合いたいという思いが強く伝わりました。

 

 実践

 

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 坐禅作法説明・坐禅は采川道昭老師がかけつけてくださいました。采川師は、現在は曹洞宗の南米国際布教総監ですが、なんと元テーラワーダの僧侶です。今回は会の主旨に賛同され、個人的に坐禅指導を引き受けてくださったそう。

道元禅師や螢山禅師の言葉を、経験を通して納得を得たと言われる采川師。法話や作法説明は全て英語で話され、プラムヴィレッジの僧侶方にも曹洞禅の哲学や精神がストレートに伝わったのではないでしょうか。

 

 

 他にも、様々な実践が行なわれました。(タイトル下の写真もその一つ、朝のマインドフルネス体操の実践風景です)

 

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野外での歩く瞑想

 

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歌う瞑想

 

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 全日本仏教青年会理事長、東海林良昌師の指導による浄土宗の念仏行

 

 

相互対話

 

 リトリートのハイライトは、2日目の夜と、最終日3日目の午前、2回にわたって行なわれた質疑応答(相互対話)でした。

 

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2日目は、プラムヴィレッジの僧侶4人が前に出て、日本の僧侶が質問するスタイル

 

 

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3日目は、日本の僧侶と、プラムヴィレッジ僧侶が2人づつ回答者になりました

 

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日本側の回答者は東海林理事長(右)と、曹洞宗藤井隆英師(中)。白熱した対話が交わされました

 

 質問は、実践(修行)の仕方から、なぜプラムヴィレッジは臨済宗なのに宗祖臨済をあまり語らないのか、宗教を排したマインドフルネスへの見解、日本でプラムヴィレッジの設立は可能か、日本伝統仏教の僧侶の妻帯について、援助者として自身の精神的ケアの仕方などなど、予想以上に踏み込んだ話題が出ました。その一部をシェアします。

(ブラザ&シスターの言葉は通訳をかいしたものです。また、私の理解不足や、聞き違いもあるかもしれません。ご了承のうえお読みください。)

 

 ・日本の仏教の現状

「自分は禅やマインドフルネスを伝える活動もしています。でも、日本の多くのお寺は生活のために、死んだ人の葬式や法事に追われ、生きている人のためのことがなかなかできません。一般の人も、どんどん離れています」

 

ブラザー・ファプ・カム

 私たちがリトリートをするのと、(日本の僧侶が)お葬式をするの、どちらも僧侶として生き延びるためのやり方です。そこに来る人の役に立つのならいいのであって、私たちが優れているわけではありません。

 

 私たちの先生は仏教をアップデートしました。鈴木俊隆老師※1も二十世紀の中頃、日本の仏教をアップデートしたいという夢を持ち、アメリカに渡った。あなたにもそういう夢があるなら、ご先祖さまの続きをしていることになります。

 

※1 鈴木俊隆:アメリカに禅を広めた曹洞宗の僧侶。著書『禅マインド ビギナーズマインド』(サンガ新書)はスティーブ・ジョブズら多くのアメリカの革新的な若者(当時)に愛読された。

 

 

 

 ・宗教を排したマインドフルネス

「宗教性を排したマインドフルネスを、プラムヴィレッジの方はどう考えていますか」

 

ブラザー・ファプ・カム

 マインドフルネスはどんどん細分化していて、これから先、気をつけないと全く別の物になる可能性がある。私たちはマインドフルネス・アカデミーを創立して、ひとつの基準をつくろうとしています。そこでは(仏教とか医療とかの)セクトに関係なく、マインドフルネスとしてどうかを検証していきます。

 

シスター・インサイト

 私のアイルランドにいる在家の友人は、マインドフルネスで大学の学位をとって、学校、デパートの店員、軍隊などで、(宗教の要素があると入りにくいところで)マインドフルネスを教えています。一人一人には役割があります。マインドフルネスで生活の糧を得てもいいのです。

 ポイントは、それで人々が少しでも幸せになれるか。どうやったら人を助け、自分自身も助けることができるかです。そうやって法門を開き、耕していくことが大切です。

 

 

 ・僧侶の妻帯

 世界的な視野でみると、仏教僧侶は比丘戒により妻帯を禁じられているのがスタンダードなため、「日本の僧侶の妻帯について」はひんぱんに外国の僧侶や仏教徒から聞かれることです。日本の伝統仏教の特色なだけに、プラムヴィレッジ側から話題にあがりました。(一般的に日本伝統仏教の僧侶は、比丘戒は受けていません)

 

 まず、リトリートのオーガナイザーである村田博雅師(世界仏教青年連盟 会長代行)が、日本では明治以降、政府が妻帯を認めるようになった歴史を解説。

 それをうけて東海林師は、家族でお寺を支えることで、仏教を広めているのが日本仏教の現代の姿であることを説明されました。

 

 さらに、今回は夫婦で参加されていた浄土真宗の住職と坊守さんがいたので、前に出てお話いただくことに。二人の出会いから結婚を決意するまでの過程や、マインドフルネスの実践をしながら夫婦で布教する日常などを語られ、プラムヴィレッジの僧侶も興味深く耳を傾けていました。

 また、受戒に関して質問されると、各宗派の僧侶で互いに確認し合う場面も。同じ日本の伝統仏教でも、自分の属する宗派以外に関しては疎いことに気づき、学んでいく必要性を感じた僧侶もおられました。

 

 対話が深まるなかで、国際的な活動をされている東海林師は、「他国に行くと、日本の仏教は戒律を守っていない変わった仏教ではないか、という視線にさらされることも多いです」と告白。そういった現状のなかで、家族で仏教を守り広めている日本仏教に対して、深いシェアリングができたことに感謝されました。

 

 最後にブラザー・ファプ・カムは、鈴木大拙が妻に支えられてアメリカに禅を広めた例をあげ、日本の僧侶が家族で仏教を社会に広めていることに理解をしめしました。さらに、家族を持ってお寺を支えていくのか、サンガを形成してブラザー&シスター(出家者)としてそれを支えていくのか、二つの選択があることを指摘し、「かたちはどうであれ私たちの使命は、人々の苦しみを少しでも軽減するということです」と締めました。

 

 私は1回目と今回の3回目を取材しました。初回はプラムヴィレッジの僧侶団が法話や実践指導をし、日本の僧侶は学ぶ側という形だったのに対し、今回はプラムヴィレッジ側が日本の僧侶から学ぶ場面もあり、よりオープンな場になりました。

 来年も開催を予定されているそうですが、さらにフラットな関係で実践をし、率直に対話が深められていくことを期待します。それは、日本の僧侶の国際的な視野を広げ、実践の大きな参考になるとともに、巨星ティク・ナット・ハンのもとで独自の発展をするプラムヴィレッジにとっても、大きな刺激となるのではないでしょうか。

 例えば若いブラザーが、同じ臨済宗の日本人老師から「喝!」を入れられる場面など、密かに期待しているのですが。

 

 (なお、8月発売予定の「サンガジャパン27号 禅特集」で、相互対話の詳細が掲載が予定されています)