コマメディア 〜史上最弱の仏弟子コマメ〜

雑誌、書籍で活動するライター森竹ひろこ(コマメ)が、仏教、瞑想、マインドフルネス関連の話題を紹介。……最弱なのでおてやわらかに!

地下500mの世界に潜って、歩く瞑想をしたり、トイレのないマンションについて考えたりしました。

 9月の頭に、地下500メートルの世界に行ってきた。

 

ことの始まりは、作家の田口ランディさんから「穴を見る女性ツアー」に参加しませんか、

とお誘いのメールが届いたこと。

 

穴ですか……?

 

なんでも、岐阜県端浪市に地下500メートルまで掘られた、

「高レベル放射性廃棄物を地中に埋めるための穴」の実験地があるとのこと。

それを、さまざまな分野で活動している女性で見学して、

感想を交換し合うツアーを企画されたそうだ。

 

ちょうどその頃、お世話になっている編集者さんが出版に尽力された、

福島第一原発廃炉図鑑』(太田出版)を読んでいたところ。

ご縁の繋がりを感じて、すぐに参加を決めた。

 

福島第一が廃炉になったとして、

そこで取り出された放射性廃棄物の行方は気になるところ。

 

でも、もう一つ地下500メートルの世界そのものに心が引かれました。

 

 そこでは、どんな感覚が生じるのだろう。

ここで瞑想したら、地上でするのとは違うかな。

歩く瞑想ならできるかもしれないぞ……。

 

私が日常行っている、

ベトナムの禅僧ティク・ナット・ハンの指導される歩く瞑想の一つには、

母なる大地に感謝の思いをこめて、

一歩一歩キスをするように優しく、ていねいに歩くというものがある。

母なる大地の外側ではなくて、内側からキスもできたら……。

 

*         *         *

 

田口ランディさんが声をかけたツアー参加者は、

19歳から80歳の女性が15人ほど。

音楽評論家、ピアニスト、大学教授、エッセイスト、フォトグラファー、

教育関係者、主婦、フリーター、そして「こどもオモ部」部長の芸術家!

年齢も生業も幅広い女性が集まった。

 

地下500mへは鳥かごのような簡易エレベーターで

470メートルを5分ほどかけて潜り、そのあと螺旋階段で降り立った。

 

地下は寒いのかと思ったら、意外にも蒸し暑い。

湿度は100パーセントに近いそうだ。

 

地下水がゴウゴウと流れる音、トンネルに染み出した水滴がたえず落ちる音、

意外にもこの世界は音であふれてた。

なのに、なぜか静寂に支配されているような奇妙な感覚を覚える。

圧倒的に、生命の気配を感じないためだろうか。

 

地下500メートルのトンネルのような通路を、グループから遅れないような速度で、

一歩一歩キスするように歩いてみる。

レンタルされた作業靴の厚い靴底から、じんわりと坑道の感触が伝わってくる。

地上より大地との一体感を感じる、そして無駄な力みが抜けていく。

 

この世界にいると、「自分」という感覚がどんどん薄れてく。

自分が歩くのではない、

たまたま森竹某というものがそこに在るだけ、

ただ歩いているという行為が在るだけ。

 

*         *         *

 

地下に潜る前にレクチャーを受けた。

 

使用済みの核燃料は、プラトニウムなどを取り出す再処分をしたあと、

ガラスの原料とまぜて円柱に固めて「ガラス個化体」にされるそうだ。

これが放射性廃棄物、いわゆる核のゴミ。

その大きさは130㎝で小学生低学年と同じぐらい、

でも重さは500kgで雄のシロクマ並だ。

 

実はこのガラス固化体、

人間が近寄ると20秒で死ぬほどの放射量を放出しているそうだ。

そして、千年は強い放射線を出し続ける。

 

千年、という言葉を聞いて、一瞬気が遠くなる。

私たちが、どうこうできるレベルの時間ではない、お手上げだ。

でも、考えてみたら今から千年前は、紫式部が「源氏物語」を書いていたころだ。

今も、共感をもって読み継がれる「源氏物語」が書かれた時代。

そう考えると千年の年月がグッと現実味をおび、

今と地続きの時間として考えることができる。

 

現在は、ガラス個化体は何重にもバリアで覆われ、

青森県六ヶ所村にある施設で一時的に保管されている。

 地震での被害を指摘する学者もいる。

 盗まれて、核汚染を引きおこすダーティー・ボム(汚い爆弾)に転用されるリスクもある。

 

でも、日本にはまだ最終処分所がない。

自分たちの国で出た放射能廃棄物は、自分たちの国内で処分する、

それが国際的な指針だそうだ。

 それなのに、日本では最終処分場を決めないまま原発を推進してきて、

「トイレなきマンション」と批判されている。

そして今もトイレがないまま、住み続けようとしている。

 

トイレの汚物にも例えられるガラス個化体は、

最初の千年間は強い放射線を出している。

万一溶け出しても、人間に被害のない処分の仕方が求められるそうだ。

そして、千年間は溶け出さなかったとしても、

無害化するには1万年から10万年はかかると言われる。

 そのためにも、人間の世界に届くのをできるだけ遅くするには、

地下深くに埋めるのが、現在ではベストな選択だと説明を受けた。

 

*         *         *

 

原発のことは、まだ考えられても、

千年、さらには万年という言葉までが飛び交う放射性廃棄物の最終処分となると、

あまりにも大きな話になりすぎて、正直実感がわかない。

 帰りの貸切りバスのなかで、みんなで感想をシェアしたが、

何人かが同じようなことを口にした。

 

私も、今は言葉が出てこない。

戸惑いも持っている。

 

でも、それでいいのだろう。

地下500メートルの世界に立ったことで、

すでに意識の中に、しっかりと埋め込まれたのだから。

 

今月は、北海道幌延の実験地で男性だけのツアーが行なわれる。

さらに、参加者でダイアローグを重ねて行く予定だそうだ。

私もそうやって言葉をやりとりするなかで、

また見えてくるものがあるだろう。

(でも見えなくても、それもOK)

 

まずは、日々のやるべきことを、気づきをもって丁寧にやっていく。

恐れや、不安をかきたてる、あのエネルギーに振り回されない。

人の話を、ジャッジを加えずにありのままに聞く。

そうやって、しっかりと問題と向き合えるように、

人としての底力を整えていこう。

 

 

(おまけ)

ところで、この前日行ったあいちトリエンナーレ2016インスタレーションと、

地下500メートルの坑道が、似ていることに写真を整理して気づきました。

見た目の印象だけでなく、このインスタレーションも、そこにいると静寂とともに自分の存在がなくなるような瞑想的な空間でした。(ちょうど貸切に近い状態でした。混雑時は、そんな感覚になるのは難しでしょうけれど……)

 

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