コマメディア 〜史上最弱の仏弟子コマメ〜

雑誌、書籍で活動するライター森竹ひろこ(コマメ)が、仏教、瞑想、マインドフルネス関連の話題を紹介。……最弱なのでおてやわらかに!

【報告】日本人チベット医の小川康さんと、薬草巡礼をしてきました。

 

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  10月10日から2泊3日で、秋が深まりだした長野を訪ねました。10日から11日は風カルチャークラブが主催する「アムチ(チベット医)小川康さんと行く 長野・小諸で薬草巡礼」に参加。解散後、11日は長野に宿をとり、善光寺に参拝しました。

 

野草巡礼スケジュール

10日

午後 里山で薬草や野草観察・採集

夜  採取した薬草、野草の恵みをいただきながら薬草談義の懇親会

 

11日

午前 薬草講義

午後 布引観音参拝 解散

 

チベット医(アムチ)の小川さん

 薬草巡礼の講師・小川康さんはインド・ダラムサラチベット医学歴法学大学に、チベット圏以外の外国人としては初めて入学を許され、日本の教育システム(というか、日本人の常識)からは想像もつかないほど厳しいカリキュラムをクリアされて認定されたチベット医です。薬剤師の資格を持ち、渡印前は薬草会社に務めていた経験がある、日本の薬草のスペシャリストでもあります。

 私はプロフィールを読んで真面目な学者肌の人かなとイメージしましたが、実際にお会いすると、チベットのカラっとした青空のような朗らかな方。チベット文化や薬学を通して自然と親しみ、その知恵にふれる、楽しくもディープな2日間になりました。

 

薬草採集

 薬草の採集は小川さんの知人が管理する、小諸市内の里山で行われました。今では歩く人がほとんどいない、かつて木材の運搬に使われていた山道を歩きながら、薬草を見かけると解説を聞き、観察して、触って、嗅いで、そして毒性のあるもの以外は食べてみる。五感をフルに使って薬草と触れ合いました。

 

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 山芋の採集。

 

豊かな秋の里山

 苦みの強いアキカラマス、渋みの強いゲンノショウコ。五味が全て含まれた朝鮮五味子の赤い実は、まず酸っぱさが口に広がり、その後、甘み、苦み、辛みが口に残り、わずかな塩見も感じました。

 そして、ひときわ力が入ったのは、今の時期ならではの山芋掘り。あちこちを掘り探って10センチに満たないものが3本採取でき、夕食時にすり下ろしていただきました。意外にも、えぐ味やアクをほとんど感じないまろやかな口当たり。土の中のパワーがギュッと凝縮されているようで、数口だけでも「食べた!」という満足感がありました。

 

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野生の山芋はひときわは粘りが強い。ディツプ風に野菜につけて食べてみました。

 

和製ホップ発見!

 個人的なヒットは、和製ホップのカラバナ草が自生していたこと。ホップといえばビールの原料。ビール好き(?)の風カルチャー代表の嶋田さんと、実はビアテイスター(ビールソムリエ)の資格を10年以上前に所得している私は、特に採集にはげみました。

 お湯をさしてハーブティーにすると、エールタイプのビールのような爽やかな香りと苦みが楽しめました。もちろん、ノンアルコールです。

 さらに沈静効果があるということで枕元に置いて寝ましたが、みなさんグッスリと眠れたそうです。昼間の山歩きで、ほどよく疲れていたこともあるでしょうが……

 

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和製ホップのハーブティー

 

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採集物。右下から時計回りに、朝鮮五味子、ほうの実、和製ホップ 、胡桃です。見た目が毒々しいほうの実ですが、長野のご長寿村のおじいさんのお宅では、お風呂に入れているそう。長寿の秘訣?

 

 

 

薬草講義

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 2日目の薬草講義では、会場にチベット医学経典「四部医典」の絵解き図(タンカ)が広げられ、薬草や薬剤、製薬に使う秤や石臼が並べられていました。

 1700年ごろに制作された絵解き図は、あえて漠然と書かれた「四部医典」の内容を、具体的でわかりやすく伝えるために絵画化したもの。小川さんは「チベット仏教や医学は目に見えない神秘的な世界と誤解されていますが、いかに目に見えるようにするか頑張っています」と説明されます。

 

いよいよ、チベット薬の試作 

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興味深い雑学を交えたチベット医学の紹介に続き、チベット薬「ザクロ五味散」の試作です。

ザクロ五味散のレシピ(写真左から)

・野生の乾燥ザクロ(ローズヒップで代用)

・シナモン

・カルダモン

・長コショウ

・ショウガ

 

 ザクロ五味散は医学経典の最初に登場する、チベット薬のなかでも最もポピュラーな生薬の一つ。消化や胃の力を助ける効果が期待できるそうです。ザクロは日本で見かける大きく甘みのあるものではなく、野生の小さく酸っぱい品種。この日は、ローズヒップで代用されました。意外にも日本のザクロより、こちらの方が近いそうです。

 チベット医学では、ないものを、いかに代用して作るかも大切だとか。ザクロ五味散の材料はどれも薬箱というより台所にあるものばかり。チベットでは医学が生活に根差していることがうかがえます。

 

 

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重さを量り……

 

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 ……石臼の上へ。色合いが、きれいです。

 

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石で細かく砕きます。

 

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右が出来上がり。左の色の濃い方はチベットで市販されているザクロ五味散。

 

 出来あがったザクロ五味散からは、カルダモンの爽やかな香りが強く立ち上がりました。口にするとローズヒップの甘酸っぱさがベースとなり、なかなか美味。クッキーやパンの生地に混ぜても美味しそうです。私は昨日からごちそう続きで少し胃が疲れていましたが、この薬を飲んで落ち着いたように感じました。

 午後からは布引観音にお参り(巡礼?)して解散。私は一人、長野に向かいました。

 

 

究極の総合医療者、アムチ

 

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書き込みも多い小川さんの「四部経典」と、マンガチックなその絵解き図。どちらも当然、チベット語で書かれています。

 

 ところでチベット医師(アムチ)は、この日の活動だけみると、なんだか薬剤師のようですね。

 日本では医師と薬剤師、製薬業者は役割分担されていますが、アムチは大地から薬草や鉱物などを採集し、自ら薬を作りだし、患者を診断し、症状に合わせて調剤するという全てのプロセスを行います。さらに僧侶的な役割も担い、薬を作る時はお経を唱えるそうです。

 実際、医学大学では毎日1時間の読経の時間があります。また毎年、1ヶ月近くヒマラヤ山中にベースキャンプを張り、薬草を採集し続ける過酷な実習があり、小川さんは何度も命の危険を感じながらやり遂げたそうです。

 アムチは学者、薬剤師、医師、祈りを捧げる僧侶的な役割、全てを担う能力があることが要求されます。「アムチは結果を出すことで、長年に渡り変わらない人々の信頼を得てきました。根本的な能力があるか、ないかが大切です。」と小川さんは言葉に力をこめます。与えられた資格の権威よりも、実力主義人間主義。国家が医師資格を制定する前の、治療者本来の姿を思い出させてくれました。

 

  小川康さんのHP→「森のくすり塾」

  著書「ボクは日本でたったひとりのチベット医になった ヒマラヤの薬草が教えてくれたこと」径書房

 

    ※旧ブログから引越ました→コマメディア ー史上最弱の仏弟子 コマメー